アティトラン夜想曲
日本から、懐かしい友人がやってきた。
彼女とはもう、ン十年の付き合いだから、
甘っちょろい学生時代も、バブリーな就活の時も、その後の波乱の転職も、なんちゃって留学時代も、恋愛も失恋も、そして結婚も、
お互いの全ての歴史を知っている稀有な友人である。
地球の裏側のグアテマラくんだりまで日本からお客様が来るってだけでも嬉しいのに、それがこんな親しい友人だったらなおさらだ。
彼女が来る一ヶ月も前から、ダンナにねだっていたことがある。
ねぇ、彼女と一緒に湖のほとりのホテルに一泊してきたいんだけどぉ、・・・子ども抜きで!
果たして、願いは無事聞き入れられ、ジェイが生まれて5年目にして初めて実現したガールズお泊りナイトには、
気合を入れて、この辺りではかなりいいクラスの、プチリゾートホテルを選んだ。
ホテル専用のデッキにボートを着けて貰うと、南洋の花があふれる山の斜面に、緑に埋もれるようにしてその瀟洒なホテルはある。
寝室とバルコニーから見えるのはもちろん、世界一美しい湖と呼ばれるアティトラン湖の堂々たるレイクビューだ。
それにしても、私たちが住む街パナハチェルからボートでたった10分行っただけの場所なのに、そこから眺める湖の、何て違って見えること!
近くにありすぎて日ごろつい忘れている風景が、改めて目に沁みるように眩しい。
日も傾き始めた頃、湖を見下ろすレストランのバルコニーに席を取り、普段使うことのほとんどない日本語で、話題に途切れることなく彼女としゃべっていたら、
ふいに突然、身体の中に、昔の自分がストンっと舞い戻ってきた。
あの感覚は多分、20代の後半、
まだ英語も拙くって、スペイン語なんぞ全く知らなかった頃。
仕事の面白さがわかり始めて、東京での一人暮らしが楽しくって、
そして、将来の伴侶なんてものの影も形もなかった頃の自分・・・。

せっかくだから、夜明け前の、周囲の明かりの一番少ない時間に夜空を見てみようよ、ということになった。
夜もとっぷりと更けて、鏡のように静かな水面と、周囲になだらかに連なる黒い山々の陰。
その上に掛かる、まあるい銀のお盆をひっくり返して被せたような夜空には、満月を過ぎて欠け始めた月がぽつんとひとつ。
ちょうど雨季の空模様で、満天の星空とはいかなかったけれど、
薄~い綿を引き延ばしたような雲の間から見えた冴え冴えとした月は、
まるで私たちが魚にでもなって、薄氷の張った水面を透かして湖の底から見上げているようにも見え、なかなか神秘的でもあった。
VILLA SUMAYA

