ジュエリーを買わない男

(続き)
トレーとともにうやうやしく戻ってきたカード一枚。
高級レストランのウェイトレスにどんなに丁寧な言葉で言われようとも、
「ちょっとあんた、このカードは使えないんだよ。」という趣旨のゼスチャーは、支払う側のメンツを多少なりとも傷つけるものがある。

さっきジュエリー店で支払ったときには何の問題もなかったのにどうして?
カード会社にはグアテマラへ来ることを事前に二度も言っておいたのに、それでもデータを処理し忘れたんだな!と、
苦渋の面持ちで心の中で舌打ちするジョンパパ、と、それを周りで見て見ぬふりをしつつ平然を装う私達一行。

海外に遊びに来ていて突如カードが使えない!というのは、旅行中の恐怖の最たるものだと思う。
しかも今回、ジョンのお父さんのカードには、「自分たちの財布では普段入れないようないいレストランでの食事×連日連夜」という息子夫婦の期待が掛かっているのだから、事はいっそう重大だ。

アティトラン湖の夕焼け

さてその夜、さっそくカード会社にクレームを入れたジョンパパ。
すると、電話口の担当者いわく、
コンピューターが自動的にストップを掛けた理由は、こちらが想像していたような「グアテマラで使用したから」ではなくて、なんと、「ジュエリーを買ったから」。
・・・って、なんだそりゃ!?

つまり、カード会社が持っている顧客個人の膨大な購買記録は、こう考えたわけだ。

「こいつは日ごろからいいレストランに行くぞ、ゴルフにも頻繁に行くぞ、いい車にも乗っているぞ、ショッピングモールで妻の買い物にも付き合うぞ、グルメな食材もメールオーダーしているぞ、国内外の旅行にも行くぞ、し・か・し・だ、
・・・こいつはジュエリーは買わない。」

「だが、グアテマラに旅行に行くとは聞いているぞ。これはヤツが旅先で購入したのではないのか?」

「それはそうだが、いやしかし、過去のデータが明確に示しているように、こいつは絶対にジュエリーは買わないんだっ!」

と、コンピューター内でひと悶着があったかは知らないが、その結果が、他人が使った可能性があるとして自動的にカード停止。
電話口で自分が使ったことを申請すると、すぐにまた使えるようにはなったものの、
う~むそれにしても、ここまで個人の行動が他者に知られているのかと思うと、カード会社のプロファイリングってのは恐ろしい。

ジョンのお母さんが買った翡翠のジュエリーセットは、たかだか一万円足らず。
そんなもので止められるほどに、「妻にジュエリーを買ってやらない男」としての烙印を押されているのかと、息子から失笑されたのはもちろんだ。

最後にジュエリーをもらったのはいつだったかしら?
確か南アフリカに出張で行ったときにお土産にくれたものがあるけれど、あら、あれはもう・・・14年も前?
と言うお母さんとともに女同士、その国の特産の石のジュエリーを買うっていいですよね、という話で盛り上がった。
父と息子は、少し離れた場所で政治の話に忙しく、こちらの話を聞いている気配はない。

そこで、嫁の私からお母さんに少々入れ知恵なぞしてみる。
「グアテマラは翡翠、特に、お母さんの買った黒い翡翠は、ここだけしか採れないという貴重なもの。
そして、私達が度々行くメキシコのサンクリストバル・デ・ラス・カサスという街の特産は、琥珀なんですよ。
しかもね、琥珀の産地は他にもあれど、世界的にも珍しい赤い琥珀ってのはそこでしか採れない!」
「ま~~~ぁ♪」

お母さんの目が瞬時に輝いたのは言うまでもない。
ジョンパパのプロファイリングにも、新しい項目が付け加えられる日は近づいているのだ。

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