ガイドブックにゃ載っていない!パナハチェルのレストラン: コルドンブルー

僻地といえども、一応どっぷり観光地ではあるんで、レストランだけは星の数ほどもある我が街パナ。
しかしその内情はどれも似たり寄ったりで、「メキシコ人が食にかけるの情熱のカケラほどでも注がんかいっ!」と叱咤したくなることもしばしばだ。
ここの物価からしたら決して安くはない観光客プライスをふっかけているんだから、
伸びたパスタなぞ出すんでないっ、百万遍噛んでも噛み切れないステーキなぞ出すんでないっ、
隠し味に、数時間後トイレ直行便調味料なんぞ入れるでないっ!!!

そんなこんなで、期待できないパナ・レストラン市場ではあるが、今年、異彩を放つレストランがこの街にオープンした。路面に掲げられた看板には、
「レストラン・コルドンブルー、コルドンブルー料理教室」

・・・う~む、微妙だ。

だって、ここはパナである。
東京辺りで、この文字を掲げられたらへへ~っと平伏してしまうだろうが、しかしこの街で見た日にゃあ誰だって疑ってかかるべし。
オープンしてからしばらくしても、ご大層な名前の割には何の評判も聞こえてこなかったこのレストラン、
しかしここ最近になってようやく流れてきた噂によると、「客が食べ物を残そうとすると、店の親父がスプーンで口まで運んでくるらしい。」

・・・やっぱりな。

だってここはパナだもの。
こんな看板を堂々と掲げるからには、何か奇怪な裏があるに違いない。
この時点で私はパスしたのだが、こういうヘンテコなことがかなり好きなジョンと友人のマイクは、ある日曜のブランチにオトコ二人して意気揚々と出かけて行ったのだった。

街の中心に立つ高級アパートメントホテルの一室にあるこのレストラン、
もしかしてこれってイマドキな、個人のお宅を改造した隠れ家的レストラン?とは、そこを見ていない人の言えること。
お宅を改造どころか、外に出るのがメンドクサイから家の中で客商売始めちゃったと言った方が正解な感じらしい。
ワンルームしかないアパートに足を踏み入れれば、お客さんのための小さなテーブルと椅子のセットが二つ、
そのすぐ横には部屋の主の使っているベッドがでーんとあって、向こうには小さなキッチンと部屋の隅には中古のテレビ。
自分達が座ったテーブルの他にもうひとつあるテーブルの方では、見栄えのぱっとしない初老の客がひとり、背中を丸めてスープを啜っている最中だ。

その場に足を踏み入れたジョンとマイクは、一瞬、
「これってもしや、・・・ディビッド・リンチなセッティングのレストラン!?」と、軽い眩暈を覚えたという。

そしてこの芝居めいたレストラン、驚かされるのは舞台設定だけじゃあない。
読みきれないほどあるメニューの中から一番高いものを選んでも、一品250円ちょっとって、いくらこの国の物価が安いとは言え、これでは原価がカバーできるかどうか!?な激安価格。
もちろん、迷った末にそれじゃあコレを!と指してみれば、ああ、これは今日はできない、それも今日はちょっとできない、ということだらけで、結局OKとなったのは、限られた数のメニューのみだったらしいけれど、
それはまぁ、こんな小さなレストランとしては許すしかあるまい。

レストラン・コルドンブルー

「・・・で、肝心の味の方はどうだった?」と聞いてみれば、それは意外にも結構美味しかったらしい。
味は合格点な上に、男性でもなかなか食べきれないほど山盛りの料理、しかも格安。
例の、スプーンで口移しサービスはその日は見られなかったというから、ほほ~う、それはまぁいいじゃないか、と思うとしかし、
美味しい話にゃもちろんウラがある!
テーブルに運ばれて来るのは料理の載ったプレートだけではなくって、話し好きのジイさんももれなく付いてくるってワケらしい。
しかもそのジイさん、お客にはほとんど話しをする隙を与えない、お客に出す料理の量以上に、自分が話したいことの量が盛り沢山ときたもんだ。

オーナー兼コックのジイさん、もうずいぶん長いことこのパナで暮らしている古株のアメリカ人で、この辺りの老舗レストランの開業当初のメニューも考案した人だという噂。
だから、腕に料理の覚えがあるのはまぁ分かるのだけれど、
この普通でない状況から想像するに、そのジイさん、年寄りの昔話を友人が誰も喜んで聞いてくれないのに一計を案じて、こんなレストランを開いちゃったってことらしい。

この値段でこの量の料理を出したら、誰も文句はあるめぇ、来る客全員をつかまえて話せたらかなりな退屈しのぎになるさな・・・。
そしてそれと同じ理由から、
部屋の前に大きく開かれた、そこで食事をしたらさぞかし気持ちがいいであろうルーフバルコニーには、テーブルは置かない。
だって、お客さんがジイさんの話に集中してくれなくなっちゃうもんね!

そんな、ヘンな意味で密かに話題のこのレストラン、コルドンブルー。
しかし、話を聞いた後で考えてみれば、「ル・コルドンブルー」ではなくって、ただの「コルドンブルー」と書いてあることからして、眉唾っぽかったんだよねぇ。

こんな、パナならではのレストラン、あなたならどお?行ってみたい?

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