夫婦の相性、一番大切なのは?
ニカラグアから北上している熱帯低気圧の接近を気にしつつ、一路向かったのは太平洋側の小さな保養地シパカテ。
肌寒ささえ感じながら朝パナハチェルを発ったのだったが、車が海に近づくにつれて熱帯特有の日差しの強さと蒸し暑さがムンムンと増してきて、水に頭から飛び込みたくなったのは、一同期待通りのことだった。
車3台を仕立てて、4家族総勢17人という大所帯は例年の通りだが、今年は初めて日帰りではなく2泊3日の旅程となったのは、ビーチ沿いにただ一軒あるホテルに、最近「冷房が付いたらしい」という目から鱗!情報をゲットしたからだ。
部屋で荷物を解いて水着に着替えて、エアコンをセットして、素足でビーチに駆け出すこの爽快さ。
白く泡立って足元に打ち寄せる波は、マシュマロみたいにふわふわで優しく暖かだ。
引いていく波に両足を付けたままでいると、指の間に残った泡がクシュクシュと小さな音を立てて消えていくのがなんだかくすぐったい。
太陽を全身に浴びつつ、天気が悪いなんてのは杞憂だったねぇ、などと話しながら存分にほてった身体で部屋に向かうと、
先に海から上がっていたマイクの娘が、口を尖らせながらこちらにやってきた。
「もう聞いてよ!うちのパパったらすっごいクレイジーなんだからぁ!」
文句たらたらの彼女いわく、部屋に入ると、壁に埋まったエアコンが落ちるんじゃないかと思うくらいビリビリとフル稼働していて、リモコンの設定温度は見てビックリの最低温度。
それを数時間つけっぱなしなのだから、部屋の中は冷凍庫かと思うくらいの寒さで、そんな中で海パンひとつで平然としているパパは、まったく感覚がどうかしている!というわけだ。
それを聞いたこちらも嫌~な予感がしつつ部屋に戻ると、案の定、ジョンが温度設定した私たちの部屋も、ペンギンでも生息できそうな南極状態だった。
ああ涼しい!なんて感じるのは最初の数秒ほどのことで、あとは身体に付いた水滴が体温を急速に奪っていって寒いったらありゃしない。
さっそくクシャミを始めるジェイを横に、そういや昔、アジアを旅行した時はいつもこうだったなぁと思い出す。
特に夜、エアコンなしでは寝られないジョンと、身体に風があたっては寝られない私との間で、連夜リモコン争奪戦が勃発していたあの頃。
争議の末にようやく設定温度が妥協に至っても、やはり一晩中ゴーッとうなり声を上げるエアコンの風の中では寝付かれない私が、隣のジョンが熟睡しているのを確かめてからピ・ピッと温度を上げてようやく眠りにつくと、敵もさるもので、夜中に偶然トイレに起きた時になどに、ひとり毒付きつつピ・ピ・ピッと温度を下げたりする。
「寒くて風邪ひいちゃうじゃないのよっ!」」「こっちは暑くて眠れないんだっ!」と言っている割には、シーツに包まって寝ているのが癪で、それをヤツが寝ている間に思い切り剥ぎ取ってやるくらいしか出来なかった悔しさが再び思い出される。
結婚前からそうだったのだから、今やその辺りの両者の譲らなさ加減は容易に想像できるというもの。
一晩泊まったあくる朝、部屋の前のビーチチェアでくつろいでいた友人達に「どお?よく眠れた?」と聞かれた私は、「実はそれがもう部屋が寒くって・・・」と、ここぞとばかりに夫婦間の醜態を暴露してやったのだった。
すると、面白いのは、4組の家族全員が同じ不満を口にし始めたことだ。
特に女性陣からの「寒すぎ」コールは年齢を問わずに強烈で、私はその朝一挙に9人もの味方を付けてしまった。
そこで、「次回からは女子部屋と男子部屋に分けたらどお?」と高校生張りの提案をすると、それだけは止めようよ、と今度は男性側からの反撃コールが。
こんなムサい男達と一緒の部屋には絶対に泊まりたくない、という理由よりもむしろ、・・・ゲイ疑惑を気にしすぎだよアンタら。

思うに、エアコンてのは暑さを取ってくれればそれでいいと思う私に対して、エアコンなんだからちゃんと冷やしてくれなきゃ、と考えているジョンは、その点でとってもアメリカ人だ。
同じくアメリカ人のマイクは、旅行前に娘達から協定書を突きつけられたらしい。
「最低でも一日2回は部屋から出てきて、私たちと一緒に海で遊ぶこと。」
結局、滞在中のほとんどを、エアコンの暴風の中で本を読むのに費やしたマイクは、ビーチで日焼けならぬ、エアコン焼けをしたと周囲から揶揄されようが、まったくもって涼しい顔だ。
夫婦の相性で一番大切なのは、趣味が同じとかHが合うとかじゃあなくって、寝室の温度だよ、と名言を吐いたのはいったい誰だったか。
もしこんな暑い土地に住んでいたら私たち夫婦はすぐに破滅だな、と思いつつ、2夜の試練を乗り越えた私たちは、
マングローブの林を去って、ココナッツの茂る町を後に、広大なサトウキビ畑の間の道路を通り、ゴムの木の街道を抜けて、パイナップル畑を横目に、緑色に輝くコーヒー農園を過ぎて、
一年中エアコンもヒーターも要らない街、パナハチェルに帰り着いたのだった。

地球の裏側の国より、残暑お見舞い申し上げます。


