惨事の到来 ハリケーン・スタン 1日目
私たちが借りている家は、比較的裕福な外人宅が8軒ほど並んでいる通りにあって、その一帯は、山から街の中心に注ぐ川に沿って伸びている。
普段の水量は、まぁ多くもなく少なくもなく。
大小様々な石がごろごろと転がっている河川敷は、セメントの材料を得る採石場としても地元の人に使われている。
川を挟んで広がっているのは、ねぎ畑。夕暮れ時になると、人々が用水路からバケツでくみ出す水の飛沫が、金色の夕日に映えてなんとも綺麗だ。
曇天の下、いつもと同じまったりとした時間が流れていた我が家にいて、11日の昼ごろ、川の音が普段より大きく聞こえてきたことに気づいた。
隣家の大家さんちの庭師たちは、すでに塀越しに川をチェックしている。
見れば、カフェオレ色に濁った水流が、通常よりも高い位置まで上がってきている。
それでも、降っているのはしとしと雨。
こういう光景は、高地にある山間部に大量の雨が降った時によく起こるもの。私たちもここに住んでいて、時折過去にも見てきている。
ただ、今回の状況で困ったことが、大家さんの敷地と我が家の敷地を隔てて流れる小さな川の流れが、本流の勢いが強すぎて川に合流できずに、少しずつ上がってきていることだった。
これは、小川の増水で庭まで水が浸るかもしれないな・・・。
そんなことを考えつつ、連日の雨で親子して家に閉じ込められているのにも飽きて、夕方まで友人の家でジェイと共に時間を潰すことにした。
数時間の予定だから、バッグの中にはいつものように、お財布とちり紙と、ジェイのお気に入りのブランケットとジャケットくらいしか入れていない。
ジョンは、もう少しコンピューターの仕事の方をチェックしたいからと、家に残ることになった。
友人宅での午後の時間はのろのろと流れていく。
雨も、雨脚が少し早まったかと思うとまた小康状態に戻るという優柔不断な態度をとり続け、ようやく夕暮れがやってきた。
後で聞いたところによると、5時半くらいには、水は我が家の庭まで浸水していて、ジョンは庭師の人たちと、水を逃すための穴を壁に開けていたのだそうだ。
しかし、日が落ちてしまえばそれ以上出来ることは何もなし。
その晩は、万が一床上浸水でもした時のことを考えて、ジョンも入れて親子三人で友人の家に泊めてもらうことにした。
その翌朝も、相変わらずの曇天で小雨模様。
雨に幽閉されているようで、やることもなく朝のコーヒーなんぞをすすっていたところに、大家さんの庭師の一人がやってきた。
彼は、街外れにある私たちの家よりもさらに山へ入った小さな村から、毎日この街へと通ってくる。
だから今日も彼の自宅から、街の中心に程近いこの友人宅に来るまでに、私たちの家の側を通ってきたはずで、
簡易な雨合羽に身を包んだ彼に「家の様子はどうだった?」と聞くと、
「ノー・アイ」と言われた。
もう一度聞いても「ノー・アイ」。
ノー・アイ(ない)って、それ、どういうこと?
つづく

