狂った空気 ハリケーン・スタン 3日目
パンパンッ!と乾いた発砲音が2発。
聞こえてきたのは、すぐそこの曲がり角からだ。
すでに夜中もまわり、寝なれない他人のベッドに親子三人で川の字になってようやく寝付いた時分で、さすがのジョンのいびきもジェイの向こう側でぴたりと止まり、暗闇の中で息を殺しているのが分かる。
戸締りはちゃんとしてあっただろうか?そんなことが頭を回る。
家は、バス通りからすぐ入った小道に面している。
ベッドの置いてあるロフトの窓からそろそろと路地を見下ろすと、黒っぽい色のスエットにニット帽や野球帽を被り、長い棒やマシェティと呼ばれる短剣を手に手に持った若い一団が7、8人、バラバラッと路地を駆けていった。
こんなに早い時期から、もう物資の略奪が始まったんだろうか?
しばらくすると、今度はもっと遠くの下流の方、川の向こう側で発砲音が2発、そして3発。
それと時を置かずして、鋭い警笛の音が何度か同じ方向から聞こえた。
ジョンが、あれは軍が誰かを追い詰める時に鳴らす笛の音だ、と耳元でささやいた。
なるほど、夜の街にこだます鋭い笛の音は、よく聞き分ければ2種類あって、お互いに連絡を取り合いながら素早く移動しているようにも聞こえる。
さらに言うには、最初に聞こえたのはおそらく22口径で、次のはライフル。
民間人の銃から発せられたものの後に続いたのは、それに応じた軍の銃声だったというわけである。
軍は、このことが起こる前日の夕方に、どこからともなく姿を現し、いかめしい軍隊のトラックは、街の要所にすでに配置されていた。
昼間、ライフルを構えた男たちを積んだトラックを見たときは、土砂崩れを排除する要員としては随分と大げさな、と思ったのだが、
こうなってみると、彼らがこの街にいると思っただけで心強い。
また、家の前の道を駆けてゆく、先ほどと同じような一団がある。
オレンジ色の街灯に照らし出された姿は、さぞかし凶悪にギラついているかと思いきや、見ているこちらとは違って、意外とみんな緊迫感がない。
そのうちの一人などは、家のガレージの前で立ちションをして去っていった。
眠りの浅い長い夜が明けて、結局その夜に銃声を聞いたのは、合計5回。
昼間の街は、昨日と変わらない平穏さだ。昨日と変わっているのは、太陽が少し雲の間から顔を出し始めたこと。
街の中心にある教会の周囲には、このハリケーンで足止めを食らっている移動遊園地があって、その近くの小売店が、昨夜強盗にあったと聞いた。
つづく

