間違い電話
「ニコラスいる?」唐突に掛かってくるそんな電話。
我が家にいる横文字の名前を持つ人間はジョンとジェイしかいないから、こちらも真正直に、「いないよ。」と言ってやる。
もちろん、間違い電話でしかあり得ないのだが、こちらの人たちの面白いところは、自分が掛け間違いをしたとは露ほども思っていないところだ。
「えっ、いないの?」「いないよ。」「ニコラスいないの?」「…。」
日本人同士であればここで、「番号間違いじゃありませんか?」と促してやるところだけれど、
郷に入っては郷に従えで、私もグアテマラ人方式で答えることにしている。
「ノー・アイ (うん、いないよ。)」
だって本当に、いないもんはいないんだも~ん。
次に発せられる質問は大概、「じゃあ、アナタ誰?」とくる。
ここいらが彼らの不思議なところなんだけれど、電話を掛けてきた自分が名乗りもせずに、相手に名前を聞くってこと自体、失礼だとはちっとも考えないらしい。
いつものこととは知りながら、この辺りがちょっとカチンと来る私は、「そんなことより、アナタ誰よ?」と聞いてやる。
「…ニコラスいないのかぁ?」「ふーん、いないのかぁ」「う~ん、そうかぁ…、いないのかぁ。」
ここになるともう、他人に電話を掛けていながら独り言状態である。
こちらに住み始めた最初の頃は、こんな電話はさっさと切ってしまったのだが、最近は面白いのでしばらくこの独白を聞いてみたりもする。
自分が間違った番号を押しているなんぞ端から浮かばない相手は、ニコラスに電話したはずなのに本人はいないと赤の他人から言われた事実を、自分の中で納得させようと、10秒20秒…必至につじつまあわせをするのだ。
電話文化の日の浅い国なんだなぁ、と思う。
機械に体質の合わない人たちなんだなぁ、と思う。
機械と言えば、街にコピー屋さんが出来だしたのは10年位前のこと、そんなに昔の話ではない。
日本ならば、コンビニの隅にでも行ってセルフサービスでするところ、こちらではカウンター越しにお店の人に頼んでやってもらう。
機械とは体質の相容れない人たちが多いこの土地のこと、それはそれで悪い考えじゃあないのだが、
問題なのは、お店の人すらもアンチ機械体質だったりすること。
10年以上も日本でOLしてきて、コピー機なら任せてござい!の私から見たら、これほどじれったいこともない。
「この絵本のここの部分だけを使いたいので、この位の大きさに拡大コピーして」
と頼んだら、上がったコピーを手渡される際に、
「拡大だから値段は通常の倍です。」と言われた。
絵柄を拡大しただけで、使った紙は定型紙なのにバッカじゃない?と思ったが、そういう値段設定なんだろうと思って素直に払おうとすると、
「拡大する前に、元原として等倍コピーをとったので、その分も加えて幾らです。」
と、しゃぁしゃぁと言われたので、さすがにこっちも切れた。
「あのねー、まず第一に、なんで等倍のコピーをとる必要があるっていうの?
そんなことせずに、この絵柄をコピー面の一番隅にくるように置いてやればいいだけじゃあないの。
大体、そんな訳の分からないコピーを一回分余分に取ったがために、出来上がりは質が悪くなっているし、
たとえそれをよしとしたところで、アナタのやり方でしたが故に一枚分余分にとることになったコピー代を、どうして私が払わないといけないのよっ!」
と、ビシッと言ってやったわサ、頭が鈍そうな顔で憤然として立っているその係の子に。
たかがコピー、セコイと思われようが、されどコピー。
理屈に合わないことは、ちゃんと主張しないとダメなのだ。
でも彼女には、一生かかっても、私が言ったことは理解されないんだろうなと思う。
つくづく機械とは体質の合わない人たち。
そんな人たちがインターネット会社を運営していると、これまた面白いことが起こる。
公約では200はあるはずの接続スピードが、ここ最近、一桁とか二桁しかない。
しかも接続はブツブツ切れるわで、アップロードも何もできやしない、とインターネット会社に文句を言ったら、後日チラシが配られてきた。
「天候不順のため、皆様にはご不便をおかけしております。」
…。
もう雨季は終わったんですけど、ていうか、何でインターネットが天候に左右されるわけ???
この国で会社勤めしていなくってよかった、とちょっと思う今日この頃なのだった。

