ところ変われば、ヤギになる
その昔、夏休みの間を使ってニューヨークにショートステイしていた頃の話。
毎日午後になると、楽しげな音楽を鳴らしつつ通り過ぎていくトラックがあった。
生い茂った木々のせいで道路を直には見渡せない学生寮の窓からその音だけを聞きながら、
こっちのごみ収集車は、朝イチには来ないんだな・・・、と思っていた。
うだるような暑さのニューヨークの夏の午後、
そんな時に楽しげにやって来るのがもちろん清掃車であるはずはなく、アメリカっ子なら誰でも知っているそれは、皆の人気者アイスクリームトラック。
ところがこっちは純粋培養の日本人、しかも浜っ子だ。
わが街横浜では、ごみ清掃車はアイスクリームトラックと似た音楽を鳴らしつつ来るのである!
と言ったら、思い切りアメリカ人に笑われた。
国が違えば、色んなものが変わるもんだ。
ここグアテマラでは、ごみのトラックは、「ウッ、ウ~ウッ!」と、消防車のサイレンの切れっぱしのような音を鳴らしてやってくる。
最初は何の音だか分からなかったそれも、慣れてみれば、
ベッドで未だ夢うつつの朝でも、遠くで微かに鳴っているのを聞いたとたんにガバッと跳ね起き、猛ダッシュでごみを出すことが出来るようになった。
なにしろ、来る時間がまちまちなのである。
お昼を過ぎてもやってこない時もあって、それじゃあ10時くらいに出しておけば余裕かな、とぐうたらしていると、
7時くらいに襲来を受けて、ベッドで慌てふためく時もある。
だったら、早めに出しておけば?と言われても、徒に野良ワンコに遊ばれるだけでこれもダメ。
週に二日のみのごみ収集日。その日を逃せば、クチャ~いゴミ袋と次回まで顔をつき合わせるとあって、こっちも朝から真剣だ。
屈強の男たち4、5人を乗せてやってくるごみ収集車。
それは、日本にあるような、ドラムが回転してごみをその場でぺしゃんこにしてくれる、なぁんて近代的かつ衛生的なのじゃあなくって、本当にただのトラックだ。
十年以上前にこのグアテマラにも、中古の清掃車が、ヨーロッパの国からかなりな数寄付されたらしいが、
この国の政治家が、自分のポケットマネーにするために隣国へ売り払ってしまったそうで、
だから彼らは今でもおんぼろトラックで、ウッ、ウ~ウッ!とやってくる。
家庭用生ゴミから、コーラのペットボトルから、粗大ゴミに至るまで、
一緒くたに積み終えたトラックが向かう先は、この街から15分ほど山道を登った先にある高台の村だ。
そうして、アティトラン湖の眺望も美しいその村にある絶壁から、大胆にもザザァーっとごみを投下するのである。
まだ夜も明けきらない早朝、たまたま車でその辺りを通って驚いた。
山肌をなめるようにして横から射してきたオレンジ色の朝陽に浮かび上がっていたのは、無数の大きな鳥の黒い影。
それぞれの鳥が、ごみの小山を自分の山として頂上に陣取り、左右に大きく羽を広げて微動だにせずに全身に朝の光を受け止めている姿、
それは怖いというよりはもう、荘厳!としか言いようのない、実に世紀末感漂う光景だった。
・・・と、こんなことだけを書くと、全世界が向かっているエコロジーな流れとは相反する時代遅れな国に聞こえるだろうが、
一方でこのグアテマラにも、実はこーんなエコがある。
ある日の、喧騒の首都グアテマラシティ。
排気ガスが目に沁みるハイウェイの側道を歩いていたのはナント、おじさんにひかれたヤギの一群。
殺伐としたコンクリートの風景の中に突如現れた、牧歌的なヤギたちって一体ナニ!?と目を疑っていると、タクシーの運ちゃんいわく、
彼らは、道に落ちているゴミや雑草を綺麗にしてくれる、街頭清掃隊だというのだ。従って、彼らが属するのはもちろん、・・・清掃局。
しかも、コップを持ってくれば、その場で絞りたての山羊のミルクまで売ってくれる、現金収入隊でもある。
ほんとうにもうグアテマラってのは、頭がいいのか悪いのか、よく分からない国である。

