ジジババ達とバベルの塔
「外国なんて月の裏側と同じ、そんな場所には行きたいとも思わないわ。」
と、娘と孫が海外に住んでいるのにも関わらず、日本から一歩も出たことのないうちの母。
そんな母に最近、オーストラリア人のボーイフレンド(71歳)が出来たらしい。
朝が早い老人ばかりが集まる町内のラジオ体操に、なぜか混じっていた彼の名はベニーさん。
双方ともよく意思疎通はできないものの、片言の日本語英語で気軽にジョークを飛ばすガイジンさんの登場は、
平凡な日々を送っていた日本人のジジババ集団にとっては、かなり新鮮なカルチャーショックだったらしい。
それが証拠に、3ヶ月の滞在を終えて彼がオーストラリアに帰った今でも、Eメールや写真での交流が続いているのである。
さてそうなると、当然のことながら立ちふさがるのが言葉の壁だ。
日本語から英語へ、英語から日本語へ。
実際に会って話していた時には身振り手振りを合わせて何とかなっていたものでも、文章に書くとなるとなかなか難しいものである。
だからその都度、両者のメールは、地球をぐるりと半周して、
日本からグアテマラへ、グアテマラからオーストラリアへ、そして、オーストラリアからグアテマラへ、グアテマラから日本へ・・・。
お陰で、チニータ翻訳事務所グアテマラ支部もなかなか忙しい。
ちょうどそんな折の、ドコモの翻訳アプリのサービス開始のニュースには、目が引き寄せられた。
日本語でしゃべると、英語が表示され、逆にネイティブが英語でしゃべると、日本語が画面に出てくるらしい。
携帯なんて持つわけもないウチの母には関係のないことではあるものの、うーむ、それにしても便利。
日本国内で、というよりも、海外旅行時に活躍しそうな機能である。
もちろん、意外と嵩むローミング代さえ目をつぶればだけど・・・。
以前からPC利用者の間でよく知られているオンライン翻訳といえば、バベルフィッシュ。
英語と日本語間の翻訳だけでなく、スペイン語も入っているから、私も電子辞書代わりに時折お世話になっているサイトだ。
これならひょっとして、ベニーさんと母とのメール交換に使えないかと思い、試しにうちの母が言いそうな言葉を打ち込んでみた。
「健康第一ですよ」
返ってきた答えは、“It is health first” ・・・なんだこりゃ。
「なにぶん歳なもので」
“Sluggishly it is the year with the thing” ・・・だめだこりゃ。
言葉を訳す作業で大切なのは、その国の慣習やら文化背景を理解することだとつくづく思う。
例えば日本語の慣用句として、「いつもお世話になっております」と言ったところが、
“You have taken care always”なんて出てきたら、
「俺は始終ケアなんかされていないぞ!」と、心外に思うに違いない。
そしてまたその逆もしかり、オーストラリア人のベニーさんが、ガイジンらしく軽いノリで文末に“Love you all!”とでも書いてきた日には、
「全て愛しなさい!」だなんて、実は彼は宣教師だったのかー!!!と、ラジオ体操ジジババ社会に一大旋風を巻き起こしそうである。
やはり、ドラえもんのホンヤクコンニャクまでの道のりは遠いらしい。

