風ごもり
ここの陽気は一年中快適だから♪、という甘い言葉に誘われて、ジョンのお父さんファミリーが初めてグアテマラを訪れたのは一昨年の年明け早々。
少しは冷え込む夜でさえ、何か一枚羽織るものがあればOKよ・・・、なぁんて軽く言っていた嫁の私の言葉は、きっと彼らには大嘘に聞こえたに違いない。
終日荒れ狂う強い北風に、ウールのニット帽さえ欲しくなるくらい、彼らが滞在した一週間は毎日そりゃあ寒かった。
山から吹き降ろしてくるノルテと呼ばれる北風が街を暴れまわるのは、例年だと師走から2月半ばに掛けての一時期。
雨季もとうに終わり、雨が一滴も降らなくなってから数ヶ月経った時期に吹くものだから、乾燥していた街中の土や埃が強い風に一気に巻き上げられてもう大変。
窓を閉めていてもどこからか入り込んでくる細かな砂で、机も床もじゃりじゃりじゃり・・・。
以前、街を見渡せる家に住んでいたときには、白く煙ったような視界を突く一陣の突風が街のありとあらゆる塵を含んで舞い上がり、アルファベットのQの字に空を旋回するのが見えたものだった。
こんな日にのこのこと出かけるのは、わざわざ喉をやられに出るようなもの。
だから私は、冷凍庫にとりあえずその日のおかずになりそうなものの所在を確認すると、あとはひたすら、冬ごもりならぬ風ごもりを決め込むことにする。
その年最初の突風が吹く日などは大概、夜は停電することに決まっているから、水を盥に何個も張って、キャンドルも十分に用意する。
火の暖かさが恋しくなる深夜のために、暖炉にくべる薪もたくさん仕入れておく。
これで、今宵の風ごもりは準備万端だと思うと、まるで冬眠前のクマのように幸せな気分に包まれるから不思議だ。
窓の外から途切れなく聞こえるのは、狂ったような風の唸り声。
それに時折、強風で剥がされた民家のトタン屋根が宙を舞って、電柱に激突するひしゃげた音なども聞こえてくる。
くわばらくわばら・・・こんな日には、ドデカい看板やら四肢をぴんと張った野良猫やらが、頭上から降ってくるに違いない。

この街には、Flying-Mayanという名のレストランがある。
この名前を聞くたびに私は、長い民族衣装のスカートをはためかせたマヤの女性が強風に煽られて、「あぁ~れぇぇぇ~」と宙を舞う漫画チックなイメージが浮かんできて、
思わず、ふふふふ・・・と笑ってしまうのだ。

