ドロボー騒動顛末

ご町内の回覧板も、警察の広報車が街を循環するなんてことのないここでは、何か普通でないことが起こると街の空気が変わる。
ニュースは人々の噂になり、噂は噂を呼んで、街全体がなりを潜めつつ、しかしそこかしこでコソコソと耳打ちし続けているような妙な空気。
まだ日も高いというのにシャッターを下ろして閑散としたメインストリートで、ウロウロしているのはその辺りの状況を知らない観光客ばかりだ。

ことが起こったのは、先々週の土曜日。
隣町のソロラを含むこの近隣で盗みや身代金目当ての誘拐を繰り返していた、警察関係者を含む悪党グループが逮捕されたところ、
彼らの身柄を拘束する権利をめぐり、ソロラで警察と市民側が衝突。
渡す、渡さないの押し問答の間に、人々の不満はエスカレートして、犯人の家族が経営していたストリップクラブの建物を含む、何軒かの家と自家用車を焼き払ったらしい。

町中が騒然としている状況を耳にしつつ、私としてはやはり、我が家のコソドロもきっと奴らの中に・・・、と考えはどうしてもそちらにいくが、
ここ半年ほど、かなりな狼藉を働いていた一団の内、頭のいいヤツらはもう既にすたこらさっさとトンヅラしていて、その後も欲を出して悪事を続けた残党だけが捕まったということだから、
なんだかなー、そんなアホなやつらに盗まれたと思うと、妙に不甲斐ない。

それはさておきこの事件、「犯人達を処分する権利は誰にあるか」って所が実はミソ。
日本人として考えれば、それは当然、法を施行する警察側にあるでしょ~と思うのだけれど、それに対してNO!と言ってしまう人々がいることがさすがグアテマラである。

日ごろから感じるに、この辺りには国が取り仕切る公の行政組織のほかにもうひとつ、インディヘナ(マヤの人たち、民族衣装を着ていることが多い)たちが選出した議員たちによる、インディヘナ政権とでも呼べるようなものがあり、
私達ガイジンには表面上よく見えないものの、実は事実上の二重政権が敷かれているのではないかということ。
インディヘナ人口の多いソロラで起こった今回の一件で、犯人たちを裁く権利をめぐり悶着が起こったのにはそういう背景もある。

マヤの人たちの従来の掟からすれば、自分達の市民生活を脅かした極悪人たちは、直に自分達で手を下して、実力行使の制裁を受けるべし!ということらしい。

民族衣装をびしっと着こなして見るからに貫禄十分な、この地域のドンのような男を筆頭に、犯人たちが拘束されている建物へ向かう男たちの写真が、ジャーナリストによって撮られている。
警察との長時間に及ぶにらみ合いの末、埒が明かずに、
「事件は会議室で起こってるんじゃない!現場で起こっているんだっ!」と啖呵を切ったかどうかは知らないが、
しかしグアテマラといえども一応は法治国家、拘束している警察側も、そう簡単に犯人たちを市民に受け渡すわけにもいかないのはもちろんのことで、話し合いは両者平行線のまま、夜を迎えたのだった。

そして結果、この翌々日に開かれた市民による抗議集会では、近隣の村々からも含む二万人もの人たちをサッカースタジアムに集めたほどに人々の熱気は納まらず、
これにはとうとう、司法側としても条件を出さざるを得なかったのか、
「一ヶ月は警察側で犯人の身柄を預かる。その期間内に人々の納得いく法的措置が行われていないと見なされた場合には、犯人たちを市民側(インディヘナ組織側)に引き渡してもいい。」
という合意に達したらしい。

・・・あの~、一応は法治国家なんだけどね。

さて、それから一週間以上が経ち、町への車両の通行止めもすべて解除されて、今はすっかり平常に戻っている様子のソロラの町とその近辺。
締結の日が来たらまたどうかなると思う?と、うちのメイドの子に聞いたら、うふふふふ、と意味深に笑われた。

う~む、その日が楽しみだ。

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