犬に噛まれた
なんといっても初体験。
その瞬間は実際パニクったし、私の手首を噛んだ犬が後から息を切らして追いついてきた飼い主に追い立てられて、興奮状態のままでで路地の先に消えていくのを、ただ見ているしかなかった自分が不甲斐ない。
いったい全体あれは何だったんだ!?
バクバクしている心臓で家に戻り、まだジンジン痛む手首に軟膏をぬって、ふと冷静に考えた。
傷自体は大したことはないけれど、これってひょっとして何かの細菌が入っていたりしたら、ヤバイんじゃないの?
ある日突然、全裸で公道を全力疾走して、誰彼かまわず噛み付きたくなったらどうしよう・・・。
街の中心にある健康管理センターに行くとまず、予防接種を受ける前に、警察さながらの「調書」を取られた。
分厚いノートにびっしりと書き込まれているのは、この街の極悪犬たちの過去の犯罪歴だ。
実際、グアテマラの路上にはかなりの数の犬達が、鎖に繋がれることなくうろついている。
中には飼い主の居る犬も居るし、年季の入った真の野良も居るのだが、しかし一般には皆驚くほどに人に危害を与えないのである。
つねづね不思議に思っていたのだが、これは多分、普段から人々に十分に脅されているからだと思う。
ペット先進国の日本やアメリカからしたら信じられないことだろうが、
この国の人たちは、路上の犬たちが何もしない限りは何の注意も払わないものの、犬達が少しでもおかしな真似をしようものなら容赦はしない、すぐに石を投げるし蹴るときもある。
だから犬達もその辺りをよく心得ていて、こちらが道から石を拾い上げる真似でもしようならサッと身を引くのだ。
これは、犬が犬たる自分の分際をわきまえている、街で人間と共存するルールを知っているということなのだと思う。
でもその一方で、自分の飼い犬に十分な愛情を与えずに、ただ家畜としてぞんざいに扱う人々が多いのも事実。
そうした犬が家の狭い敷地に始終閉じ込められていて、ある日何かのきっかけに逃げ出したらどうなるか?
私が今回噛まれたのも、多分そんな犬だったのだと思う。
調書を取られて、破傷風と狂犬病予防の注射を受けていると、市役所の担当者がやってきた。
これから飼い主のところに事情を聞きに行って、狂犬病等の兆候がないかどうか10日間その犬をモニターし、その後その犬の処分をどうするか決めるのだと言う。
結果、病気の兆候がなく、飼い主に危機意識がない場合には、役所としても無理に犬をどうこうすることはむろん出来ないのだが、
学校の通学路近くで起こった今回の一件、私以外にも登校中の小学生の女の子が噛まれている事実もあって、
「その犬はまぁ、遅かれ早かれ処分されるんじゃないの?」というのが、大方の予想だ。
さて、ここでのポイントは、この「遅かれ早かれ」の部分である。
飼い主が首を縦に振らないが故に、公な立場では何も手を出せなくとも、近所の人たちが自分たちの身の危険を感じた場合には、夜中にその家の門の下からそっと毒入りの肉を差し入れておく・・・、
そんな世間にはばかる必殺仕置き人、これもこの辺りではままある話らしい。
時はおりしも10月半ば、ハロウィーンの仮装を考え出す季節だ。
白と黒の斑の犬の着ぐるみで、口からはクレイジーに泡を吹き出すべし!とは、周囲から私の今年の仮装に込められている期待である。

