サンクスギビングデー 酔いどれターキー殺傷事件
私が見る限り、アメリカ人のほとんどは大のバーベキュー・ターキー=七面鳥好きだ。
鶏肉より少々噛み応えがあって、噛み締めると肉汁からじゅわりと流れ出る旨みが、ターキー好きを昇天させるんだそうだ。
日本でもクリスマスは祝うけれど、その時に食べるのはターキーじゃなくって、KFCで買ってきたクリスマスパックのフライドチキンだよ、と言うと、大概のアメリカ人には鼻で笑われる。
アティトラン湖を眼下に見下ろすコテージに住むトムは、毎年このサンクスギビングデーの前日に七面鳥を絞めるのが慣わしだ。
部屋の中でやるわけにはいかないから、湖畔に張り出すような形で建っている屋外のテラスに七面鳥を放して柵を締め切ってやる。
この世の名残りに、世界で一番美しい湖の夕暮れを見せてやり、そして懇情の別れに酒も飲ませてやる、・・・しかも強制的にガブガブと飲ませてやる。
ガボガボガボと喉を震わせた七面鳥は、いい気分でへべれけになったところをトムにとっ捕まえられて、問答無用で頭を刎ねられるわけだ。
ターキーの丸焼きを食べ慣れているアメリカ人と言えども、実際に絞めるところから始める人はそう多くない。
アメリカに住むトムの友人のたっての頼みで、初の試みながら今年は国際電話で音声だけの生放送となったらしい今年のイベント、
なったらしいと書いたのは、私自身はそんなシーンに立ち会うのは遠慮して、翌日いい色に丸焼きになった姿だけ拝むことにしたからだ。
だから、以下はその場に居合わせた友人の話・・・。
今年名誉の執行人に選ばれたのは、本イベント初参加のアメリカ人の若者二人だ。
こういう場面では未経験な人に花を持たせるのがやはり面白い、とはトムの意見で、
今日の文明社会ではそうそうお目にかかれない、このような蛮行に及ぶからにはやはり原始人に戻らないと、と言ったかどうかは知らないが、二人とも、石器時代人の衣装を着せられての登場だ。
二羽用意した七面鳥のうち、まず最初は、虫も殺さぬような顔をした美人ジェーンの出番だ。
手にしたのは、一見無骨だが、歴代の七面鳥の血が染み込んでいるいわくつきの斧。
動かないように頭と足を紐で括りつけた状態の七面鳥の首をめがけて、顔を背けつつ斧を振り下ろすと、すぱっと見事一発でヒ~ット!
美しい顔の下に隠された殺傷能力の高さに、彼女自身が開眼したかどうかは知らないが、少なくとも周囲の男性は皆一様に一歩後ずさったという。
さて、二番手はオッタビオくんの登場だ。
アメリカ育ちの彼だけれど、七面鳥の首を刎ねるなんてもちろん初めて。
しかし、190センチ強の長身で屈強な肉体を持つ彼のことだもの、これもきっと一発でしとめて・・・と思いきや、
外見に見合わず意外と繊細なココロの持ち主なのか、斧がどうしても首を狙えない。
かすり傷を何度もつけられて、中途半端に斧を当てられて、パニクって騒ぎ立てる七面鳥。
金切り声を上げながらバタバタと動くのを、斧が当てやすいように首の付近をさらに押さえつけるトムだが、今度は斧がトムの手首を狙う。
「おいバカっ、俺に振り下ろすんじゃないぞっ、そうっソコだっ!
・・・うぇぇぇぇっ!危ないじゃないかっ、そう一気に行けっ!
・・・うぉぉぉっ!このバカっ!絶対に俺に当てるんじゃないぞっ!」
そう言っている間にもぬるぬると七面鳥の血があたり一面に滴ってきて、こうなるともう、どれが狙うべき首で、どれが血にまみれたトムの手首なのかさらに区別がつかなくなってきて、見ている周囲も大騒ぎ。
その場の光景も実際すごかっただろうが、
思うに、これを電話で音声だけ聞かされている方も、すべて見えない分だけ想像力をより掻き立てられて、かなり恐ろしかったのではなかろうか。
そんな壮絶な一夜が明けた翌日のサンクスギビングデーは、穏やかな快晴。
私は食卓に上ったこんがりとおいしそうに焼けたターキーを頬張りながら、
「私がもし七面鳥なら、絶対にジェーンの手に掛かりたいものだ」とつくづく思ったのだった。

