紫色に染まりたい

ここに住み始めてから、初めて食べて好きになった野菜もある。
グアテマラの食卓にサラダやサイドディッシュとして上ることが多くて、死者の日に食べる伝統料理にも入っているし、
トルティーヤをかりっと揚げたものの上に、野菜とひき肉を炒めたものとこれを乗せて、上から地元産のチーズとパセリをパラパラと振って食べるのも美味。

その野菜、ここでの呼び名はレモラチャ、英語名はビーツという。
ほかの野菜には例えようもない食感と味とで、私はたちまちに好きになったのだけど、
欧米人の中には、小さい頃に親からむりやり食べさせられた記憶がたたって、大人になった今でも毛嫌いする人もいる。
日本に住んでいるときは、ロシア料理店のボルシチのお皿の中でしか見たことが無かった野菜なのだけど、ひょっとして最近ではそちらでも売られていたりするのかな?

メルカド(市場)の達人主婦、友人のマルガリータによると、レモラチャ選びのコツは割りと小さめなものをチョイスすること。
日本のカブに形は似てはいるものの、日本のオナゴ風なカブの柔肌とは程遠く、こちらのボディのしまり具合は天下一品、体育会系だ。
欲張って大人の握りこぶし大ものサイズを選んだ日には、竹串がすっと通るような硬さまで煮込むには1、2時間たっぷりと掛かってしまう。

皮のまま茹であがったレモラチャは、あんなに頑なだった子がこちらに身も心も許してくれる従順さで、指先のみでちゅるりと剥ける。

それを食べやすい大きさに切り分けて、塩とレモン汁(またはお酢)をふりかけ、好みで玉ねぎのスライスと、タイムを香りづけに加えて混ぜれば完了。
冷蔵庫で一晩寝かせればさらによし! レモンの酸味が落ち着いたのに代わり、レモラチャ独自の甘味が染み出てきて、もう食べだしたら止まらない。
根菜の仲間でこんなに強い甘味があるのかと驚くが、聞けばアメリカ辺りでは、この野菜から砂糖を作っているのだそうな。

さてしかし一般に、レモラチャの最大の特徴と言えば、味よりもその強烈な色かもしれない。
気をつけて扱わないと、シンク一面に鮮やかな濃い赤紫色の汁が点々と・・・。
それが乾くとまた一層ドス黒さを増してきて、台所に足を踏み入れたオットが、これはいったい何の惨劇!?と、たじろぐことになる。

美味しいからといってむしゃぶりつけば、口の周りはバットマンのジョーカー風。
身体の中に取り込まれて一夜の旅を終えたその後は、あの鮮烈な赤紫色とまたもやトイレでコンニチハ。

それを知らずに朝のひとときを迎えると、「けっ、血便っ!?」と、ひとり個室で驚愕することになるので、ご注意を。

ビーツ
その朝採れたてのレモラチャ、メルカドにて

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